プレス発表「がん組織近くで使える高エネルギー電子線をレーザーで発生 ―内視鏡型電子線発生装置を用いた放射線がん治療の実現へ―」
量子科学技術研究開発機構(理事長 小安重夫、以下「QST」)量子技術基盤研究部門関西光量子科学研究所の森道昭上席研究員らの研究グループは、米国のカリフォルニア大学アーバイン校、カナダのウォータールー大学と共同で、細孔が多数開いたガラス板(マイクロチャンネルプレート)へのレーザー光照射により、放射線の一種である、高エネルギー電子線が発生することを実証しました。この技術を利用すれば、内視鏡型放射線(電子線)発生装置が実現可能であり、被ばく線量を低減し、かつ遮蔽が不要な放射線がん治療技術の確立を見通すことができるようになります。
放射線によるがん治療は、体に負担となる外科的手術を伴わないためQOL(Quality of Life)の高い治療として注目されています。放射線を身体外部から照射する方法や、カテーテルなどで放射線源を体内の患部近くまで持ち込んで照射する方法などがありますが、いずれの方法でも放射線を患部に届けるまでの被ばくは避けられません。また、加速器運転に伴う放射線発生や放射線源の取り扱いなどに留意する必要があり、装置価格の抑制や運用コストの低減も求められます。
今回の実験では、パルスレーザーをマイクロチャンネルプレートに照射すれば、がん治療が可能な数百キロ電子ボルトレベルの高エネルギー電子線 が発生することを確認しました。従って、光ファイバーの先端に微小なマイクロチャンネルプレートを固定した装置を作製し、内視鏡と組み合わせて利用することができれば、体内のがん組織に近接した場所で高エネルギー電子線を発生させ、放射線治療ができることになります。この技術では被ばく線量の低減が可能であり、また放射線遮蔽設備が不要な放射線がん治療技術の確立につながります。
本研究の一部は、JST未来社会創造事業大規模プロジェクト型「レーザー駆動による量子ビーム加速器の開発と実証」(JPMJMI17A1)の支援と日本学術振興会(JSPS)科研費(JP20K12505、JP23K11716)の支援を受け実施されました。研究成果はAmerican Institute of Physicsが発刊するオープンアクセス誌『AIP Advances』に2024年3月28日(木)(米国時間)に掲載されました。