重イオン小型入射器の研究開発

研究開発の課題

本プロジェクトでは、「重イオン小型入射器」の実現に向けて、以下の課題に取り組んでいます。

  1. 高輝度・MeV級イオンビームの生成とビームのマニピュレーション技術の確立。
  2. 高繰り返し動作可能な薄膜ターゲット技術。
  3. エネルギー拡がりを圧縮するデバンチャー技術。

研究開発の成果概要

 本プロジェクトに参加している研究開発機関(研究開発グループ)がこれまでに達成した成果の概要および発表論文を、以下、年度毎に掲げます。

「QSTイオン加速」グループ

2023年度

  • レーザーによる核子あたりMeV級のイオン発生・加速、輸送、診断の入射器の一連の機能を確認し、第2ステージの目標を達成した。
  • 炭素線発生実験やイオン化を考慮したPICシミュレーションにより、POC達成にはレーザー装置の更なる集光性能および出力向上が必要なことを明らかにすると同時に、統合試験に向けたレーザー高度化の準備を開始した。
  • ターゲット薄膜表面に付着する汚染層の除去特性を評価し、より高度化した装置の提案を行った。
  • シンクロトロン入射部分に関しては、シミュレーションによる検討を引き続き進めた。
  • ビーム損失が十分抑制可能な真空度および真空度確保のための薄膜隔壁挿入効果の検討を行った。

2022年度

  • イオン加速プラットホームにおける炭素線発生実験やイオン化を考慮したPICシミュレーションにより、レーザー装置の更なる集光性能および出力向上が必要なことを明らかにすると同時に、2023年度の統合試験に向けたレーザー高度化の準備を開始した。
  • ターゲット薄膜表面に付着する汚染層を連続的に除去する装置の特性を評価し、より高度化した装置の提案を行った。
  • イオンビームの制御に必要な加速器部品を準備することで、核子あたりMeV級のイオンビームの捕集と伝送・評価の準備を進めた。
  • シンクロトロン入射部分に関しては、シミュレーションによる検討を引き続き進めた。
  • ビーム損失が十分抑制可能な真空度および真空度確保のための薄膜隔壁挿入効果の検討を行った。

2021年度

イオン加速プラットホームのレーザーシステムの高度化を進めイオン加速実験を行った。

  • 2020年度に開発した100Hzの2段のチタンサファイアCPAを10Hzの最終段増幅器に導入し、パルスあたりの出力エネルギ-0.75Jで、圧縮パルス幅40fs程度、パルスコントラスト1010程度が得られることを確認した。
  • 観測された炭素イオンスペクトルは、現状ではC4+とC5+が支配的であり、C6+が支配的な状態まで電離が進んでいないことがわかった。この結果は比較的簡単な理論モデルやPICシミュレーションによる計算結果と矛盾しておらず、イオン入射器の置き換えに必要なイオン価数、イオンエネルギー、イオン数の目標値を満たすためには、レーザー集光強度および標的の最適化によるシース電場の増強が必要であることが分かった。
  • 炭素イオン発生の高純度化に必要な条件を明らかにするとともに、炭素イオンの連続発生を目指して高繰り返し発生可能なターゲットシステムを試作した。

2020年度

イオン加速プラットホームレーザーシステムでのイオン加速実験を開始し、連続標的供給装置によるイオン発生の安定性を評価した。

  • レーザーシステムについては、昨年度開発した100Hzの1段目CPAを2段目以降へと繋げ、40mJのレーザー出力を100Hzで達成し、この状態でパルス圧縮することで、スペクトル幅60nm程度、圧縮パルス幅30fs程度、パルスコントラスト10-10程度であることを確認した。
  • ターゲットの炭素高純度化では、真空下でのCWレーザー加熱の有効性をポリイミド炭化薄膜、およびグラファイト薄膜、ニッケル基板+グラファイト蒸着薄膜、それぞれに対して確認し、レーザー加熱しながら汚染物を除去して炭素の加速効率を上げる手法が基盤技術として使えることが明らかになった。
  • イオンビームの診断系の開発では、低エネルギー(~10keV/u)の炭素イオンを用いて、荷電粒子ビーム光学技術を用いたビーム計測技術の開発、ならびにペッパーポッドシステムによるエミッタンス評価をおこなった。
  • イオン加速スキームの最適化では、励起レーザーの分散制御により発生イオンの最大エネルギーと発生量が制御できることを実験的に明らかにした。また、2D、3DPICシミュレーションにより各種パラメータ依存性を評価した。

2019年度

開発した分光磁場が可変な小型トムソンパラボラ分光器
[Ref.: S. Kojima et al., Rev. Sci. Instrum. 91, 053305 (2020)]

イオン加速については、整備を完了した「イオン用レーザー加速先行試験プラットフォーム」(以下、「イオン加速プラットフォーム」と記す。)を用いて、高繰り返しターゲットによるレーザーイオン加速試験を実施した。レーザー加熱による被加速粒子の炭素イオン高純度技術開発とリアルタイム診断装置による計測を合わせて実施した。炭素イオンの高純度化については、レーザー加熱を用いてターゲット裏面に付着する不純物の比率を大幅に抑制することができた。

また、イオン加速のためのプラットフォームレーザーの高コントラスト化整備を加速し、直交偏光波発生(XPW : Cross-polarized wave generation)方式のパルス整形技術開発を終え、2020年度にイオン加速のための照射実験を開始できるように開発を進めた。レーザー、プラズマ、イオンに関するリアルタイム計測装置については、レーザーはイオン加速プラットフォームの整備と合わせ、スペクトルやパルスエネルギーのリアルタイムモニターを導入し安定性評価に利用することで設計を開始した。プラズマについてはリアルタイム計測の高精度化に用いるために、電子分光の高速デコンボリューションアルゴリズムの開発を通じ設計を開始した。イオンについてはリアルタイムモニター可能な小型トムソンパラボラ分光器を設計、開発し実験におけるデータ取得に利用した。

さらに加速スキーム決定に必要な実験として、J-KARENレーザーによる炭素イオンのビーム加速メカニズム診断系の開発を行うとともに、イオン加速プラットフォームや京大の10 TWチタンサファイアレーザー(T6レーザー)を利用して、加速スキーム決定を視野に入れたレーザー駆動イオン加速実験を行った。

2018年度

開発を終えたダブルCPAシステムの1段目。
次年度のイオン加速照射実験開始に向けて開発を進めた。

イオン加速については、パルスコントラスト性能が改良されたJ-KARENを利用し、加速スキームの最適化実験をリアルタイム診断装置開発と合わせて実施した。炭素線については、銀薄膜照射において1ショットあたり4 MeV/uの炭素線を1msrあたり10 %帯域内にH29年度に得られたものより多く発生できることがわかった。

また、イオン加速のためのプラットフォームレーザーの整備を加速し、ダブルCPAシステムの1段目の開発を終え、2020年度の夏にイオン加速のための照射実験を開始できるように開発を進めた。

発表論文

2024年度

2023年度

2022年度

  • Enhanced ion acceleration from transparency-driven foils demonstrated at two ultraintense laser facilities, Nicholas P. Dover, Tim Ziegler, Stefan Assenbaum, Constantin Bernert,Florian-Emanuel Brack, Stefan Bock, Thomas E. Cowan, Emma J. Ditter,Marco Garten, Lennart Gaus, Ilja Goethel, George S. Hicks, Hiromitsu Kiriyama,Thomas Kluge, James K. Koga, Akira Kon, Kotaro Kondo, Stephan Kraft,Florian Kroll, Hazel F. Lowe, Josefine Metzkes-Ng, Tatsuhiko Miyatake,Zulfikar Najmudin, Thomas P¨uschel, Martin Rehwald, Marvin Reimold,Hironao Sakaki, Hans-Peter Schlenvoigt, Keiichiro Shiokawa, Marvin E. P. Umlandt,Ulrich Schramm, Karl Zeil, and Mamiko Nishiuchi, Light: Science & Applications, Vol. 12, 71 (2023). doi: 10.1038/s41377-023-01083-9
  • Characteristics of laminar ion beams accelerated via a few-joule laser pulse, T. Morita, Physical Review Research, Vol. 4, 043020 (2022). doi: 10.1103/PhysRevResearch.4.043020
  • Nanoscale subsurface dynamics of solids upon high-intensity femtosecond laser irradiation observed by grazing-incidence x-ray scattering, Lisa Randolph, Mohammadreza Banjafar, Thomas R. Preston, Toshinori Yabuuchi, Mikako Makita, Nicholas P. Dover, Christian Rödel, Sebastian Göde, Yuichi Inubushi, Gerhard Jakob, Johannes Kaa, Akira Kon, James K. Koga, Dmitriy Ksenzov, Takeshi Matsuoka, Mamiko Nishiuchi, Michael Paulus, Frederic Schon, Keiichi Sueda, Yasuhiko Sentoku, Tadashi Togashi, Michael Bussmann, Thomas E. Cowan, Mathias Kläui, Carsten Fortmann-Grote, Lingen Huang, Adrian P. Mancuso, Thomas Kluge, Christian Gutt, and Motoaki Nakatsutsumi, Physical Review Research, Vol. 4, 033038 (2022). doi: 10.1103/PhysRevResearch.4.033038
  • Characterization of plasma mirror system at J-KAREN-P facility, Akira Kon, Mamiko Nishiuchi, Yuji Fukuda, Kotaro Kondo, Koichi Ogura, Akito Sagisaka, Yasuhiro Miyasaka, Nicholas P. Dover, Masaki Kando, Alexander S. Pirozhkov, Izuru Daito, Liu Chang, Il Woo Choi, Chang Hee Nam, Tim Ziegler, Hans-Peter Schlenvoigt, Karl Zeil, Ulrich Schramm, and Hiromitsu Kiriyama, High Power Laser Science and Engineering, Vol. 10, e25 (2022). doi: 10.1017/hpl.2022.15
  • フェムト秒レーザー生成プラズマ駆動重イオン源, 近藤康太郎, プラズマ・核融合学会誌, Vol.98, No.6, pp. 261-266 (2022).
  • フェムト秒レーザー生成プラズマ駆動イオン源からのイオンビーム輸送, 榊泰直,宮武立彦, プラズマ・核融合学会誌, Vol.98, No.6, pp. 267-272 (2022).

2021年度

  • レーザー加速炭素ビーム粒子数のシングルショット診断, 宮武立彦,小島完興,榊泰直, レーザー研究, 50巻1号, pp.42-46 (2022).
  • 日本発の荷電粒子線治療技術, 白井敏之, 医学物理, 41巻, 3号, pp. 122-126 (2021). doi: 10.11323/jjmp.41.3_122
  • Proton beam quality enhancement by spectral phase control of a PW-class laser system, T. Ziegler, C. Bernert, S. Bock, F.-E. Brack, T. E. Cowan, N.P. Dover, M. Garten, L. Gaus, R. Gebhardt, I. Goethel, U. Helbig, A. Irman, H. Kiriyama, T. Kluge, A. Kon, S. Kraft, F. Kroll, J. Metzkes-Ng, M. Nishiuchi, L. Obst-Huebl, T. Püschel, M. Rehwald, H.-P. Schlenvoigt, U. Schramm, and K. Zeil, Scientific Reports, Vol. 11, 7338 (2021). doi: 10.1038/s41598-021-86547-x

2020年度

2019年度

2017年度

  • Development of carbon-ion radiotherapy facilities at NIRS, Y. Iwata, T. Fujita, T. Fujimoto, T. Furukawa, Y. Hara, K. Kondo, K. Mizushima, T. Murakami, M. Muramatsu, M.Nishiuchi, E. Noda, K. Noda, H. Sakaki, N. Saotome, Y. Saraya, S. Sato, T. Shirai, and R. Tansho, IEEE Transactions on Applied Superconductivity, Vol.: 28 Iss.: 3, 4400807 (2018). doi: 10.1109/TASC.2017.2785835


ページトップへ戻る
運営

本サイトは、「レーザー駆動による量子ビーム加速器の開発と実証 」プロジェクトが運営しています。

責任制限

本サイトが提供する情報を利用することから生じる損害に対して、本サイトの運営者は一切の責任を負いません。

著作権

本サイトに掲載されているコンテンツ(文章、写真、イラスト、図表等)の著作権は、特に表示がないかぎり、運営者に属します。

連絡先

〒444-8585
愛知県岡崎市明大寺町字西郷中38
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構
分子科学研究所 社会連携研究部門
プログラムマネージャ補佐 鈴木昌世

TEL:0564-55-7256(直通)
FAX:0564-55-7246
          e-mail: lpa-hq(@)ims.ac.jp

PAGETOP