高強度小型レーザーシステムの研究開発

研究開発の課題

本プロジェクトでは、高強度小型レーザーシステムの実現に向けて、以下の技術的な課題に取り組んでいます。特にモジュールレーザーはレーザープラズマ加速だけでなく基礎科学・産業・医療に幅広く展開が可能であり、大量生産による大幅なコストダウンが期待されます。

  • パルスエネルギー数ジュール級、繰り返し1kHz級で、コンパクトで利便性の高いレーザーシステムをの構築。
  • 機器のエネルギー変換効率の向上。高除熱技術の開発。
  • モジュール化技術の開発と性能実証。
  • 新規利用分野の開拓。

研究開発の成果概要

 本プロジェクトに参加している研究開発機関(研究開発グループ)がこれまでに達成した成果の概要および発表論文を、以下、年度毎に掲げます。

2022年度

将来の加速用レーザーシステムに必要となる小型高出力レーザーの実現を目指した研究開発を推進した。DFC構造の最適化による熱問題の解決、100J/100Hzに向けたアクティブミラー型の冷却構造の高度化およびフロントエンド・前置増幅器の改良、波長変換素子の開発、スペクトル合成による広帯域レーザー媒質の検討、新奇透明セラミックス材料の開発、超高耐力光学素子としてのオゾン密封型回折光学素子の開発、UV光アニーリングによるミラーの高耐力化等において、多くの進捗があった。

2021年度

将来の加速用レーザーシステムに必要となる小型高出力レーザーの実現を目指して、DFC構造の最適化によるレーザーの熱問題の解決、100J/100Hzを視野に入れたアクティブミラー型の冷却構造の高度化、超高耐力光学素子としてのオゾンレンズの非点収差解消、高耐力ミラーのコーティング損傷現象の予兆捕捉等において、多くの進捗があった。

2020年度

Tiサファイア励起レーザーシステムとして、常温使用のDFC構造のNd:YAGと低温使用のアクティブミラー構造のYb:YAGの励起レーザー先行器の開発を進め、実機に向けた技術開発に目処が着きつつある。また波長変換素子等についても開発を実施した。また、高強度短パルスTiサファイアシステムの技術的検討を開始した。レーザー関連の要素技術開発として、機械学習を用いたレーザーの安定化、高耐力光学素子の開発および光学素子等の高信頼化評価用加速試験装置の開発を実施した。

「分子研レーザー」「理研レーザー」グループ

  • 高輝度DFCチップにかかる成果

1) A. Kausas, L. Zheng, and T. Taira, “Comparison of direct bonded >MW-peak  power monolithic lasers,” 40th Annual Meeting of the Laser Society of Japan, Sendai International Center, Sendai, January 20-22, B01-20p-III-03 (2020).

2) A. Kausas, R. Zhang, X. Zhou, Y. Honda, M. Yoshida, and T. Taira, “19-crystal chip made by room temperature surface activated bonding for laser amplifier system,” Extended Abstracts, 67th Spring Meeting for Jpn. Society of Appl. Phys., Sophia University, Yotsuya Campus, Tokyo, March 12-15, 12p-B508-5 (2020).

3) A. Kausas, L. Zheng, and T. Taira, “Bonded optical crystal amorphous layer crystallization under temperature annealing,” Extended Abstracts, 67th Spring Meeting for Jpn. Society of Appl. Phys., Sophia University, Yotsuya Campus, Tokyo, March 12-15, 14p-A201-2 (2020).

4) L. Zheng, A. Kausas, T. Taira, “>30 MW peak power from distributed face cooling tiny integrated laser,” Opt. Express, vol. 27, no. 21, pp. 30217-30224 (2019). DOI: 110.1364/OE.27.030217

  • 関連するレーザーアンプImPACTにかかる成果

5) A. Kausas, L. Zheng, and T. Taira, “Bonded optical crystal amorphous layer crystallization under temperature annealing,” Extended Abstracts, 67th Spring Meeting for Jpn. Society of Appl. Phys., Sophia University, Yotsuya Campus, Tokyo, March 12-15, 14p-A201-2 (2020)

  • 新たな高輝度レーザー共振器構成にかかる成果

6) H. H. Lim and T. Taira, “High peak power Nd:YAG/Cr:YAG ceramic microchip laser with unstable resonator,” Opt. Express, vol. 27, no. 22, pp. 31307-31315 (2019). DOI: 10.1364/OE.27.031307

  • Tiサファイアレーザー励起に係る高出力緑色光発生の成果

7) H. Ishizuki and T. Taira, “Polarity inversion of crystal quartz using a quasi-phase matching stamp,” Opt. Express, vol. 28, no. 5, pp. 6505-6510 (2020). DOI: 10.1364/OE.386991

8) F. Cassouret, A. Kausas, V. Yahia, G. Aka, P. Loiseau, and T. Taira, “High peak-power near-MW laser pulses by third harmonic generation at 355 nm in Ca₅(BO₃)₃F nonlinear single crystals,” Opt. Express, vol. 28, no. 7, pp. 10524-10530 (2020). DOI: 10.1364/OE.384281

  • レーザー粒子加速に係る成果

9) S. W. Jolly, N. H. Matlis, F. Ahr, V. Leroux, T. Eichner, A.-L. Calendron, H. Ishizuki, T. Taira, F.X. Kärtner, and A. R. Maier, “Spectral phase control of interfering chirped pulses for high-energy narrowband terahertz generation,” Nature Commun. vol.10, art. no.2591 (2019). DOI: 10.1038/s41467-019-10657-4

「阪大レーザー」グループ

2019年度

レーザープラズマ加速に必要な高繰り返し動作と高パルスエネルギー動作が可能な超高強度レーザーとして数十J、>100 Hzを現状の目標として設定した。これを実現する現実的な超高強度レーザーとしてチタンサファイアレーザーや光パラメトリック増幅を想定した場合に、最大の課題である励起レーザー光源として100 J, 100 Hz,1 kWを開発目標とした。

この励起光源を実現するための第一段階として、大口径の偏光制御素子およびレーザー増幅器を開発し10 J, 100 Hz,1 kWのパワーレーザーシステムを世界で初めて構築する。具体的には、パルスエネルギーのスケーリングに優れ、かつ高い除熱機能を持つ口径50 mm級アクティブミラー型増幅器を新規に開発し、多段のアクティブミラー型増幅器で形成された主増幅器を構築し 10 J,100 Hz, 1 kW のパワーレーザーシステムを開発する。現在、10 J, 10 Hz, 100 Wを得ることに成功するとともに、熱、波面、偏光、自然放出増幅光、寄生発振に関する知見が得られパルスエネルギー100 J増力の設計が可能となった。

本レーザーを超高強度レーザーの励起光源として利用するためにはさらに二倍高調波への変換が必要であり、1 kWの平均出力に常時耐えうる二倍高調波発生を阪大独自の軸方向冷却された非線形結晶を用いることで実現する。このための装置設計を終了した。

10 J, 10 Hzアクティブミラー型レーザー増幅器
開発中のNd:CaF2セラミックスと透過スペクトル

さらに、超高強度を維持しつつパルスエネルギーを抑えることでレーザー装置全体を小型化する試みとして、通常数十fsのパルス幅で動作させるチタンサファイアレーザーに対して10fs以下の超短パルス化による高強度レーザー開発をフィージビリティスタデイとして進める。増幅手法として光パラメトリックチャープパルス増幅法(OPCPA)を利用する。10 fsのパルス増幅には中心波長を1 µmとすると300 nm程度の利得スペクトル帯域幅が必要である。このため、高パルス化する際に問題化するビーム口径内の局所的な増幅スペクトルの違いを補正する手法(WNOPCPA)を独自に考案した。現在、小出力ながら300 nm以上の超広帯域光パラメトリック増幅に成功するとともに、本手法について特許申請した[1]。

また、複数のエネルギー変換を必要とする現在の超高強度レーザーから脱却し将来のさらなる小型化・高効率化を目指した新レーザーセラミック材料開発を進めている。現在、液相からはじまるセラミック製造技術の初期段階として素となる粉体の粒径制御を行い最適条件を見出した。

一方、本事業を効率的に進めるとともに、パワーレーザーの医療・産業への展開を目指してH30年11月に大阪大学レーザー科学研究所内に「パワーレーザーフォーラム」(現在、参画企業50社程度)を立ち上げ、産学連携ネットワークの枠組みづくり行う。

また、具体的に次世代の実用パワーレーザー実現と医療・産業への応用を目的に「革新的パワーレーザー建設委員会」をH31年に設立し基本設計を行うと同時に、人材育成や企業間連携の構築を目指す。

2018年度

レーザープラズマ加速に必要な高繰り返し動作と高パルスエネルギー動作が可能な超高強度レーザーとして数十J、>100 Hzを現状の目標として設定した。これを実現する現実的な超高強度レーザーとしてチタンサファイアレーザーや光パラメトリック増幅を想定した場合に、最大の課題である励起レーザー光源として100 J, 100 Hz,1 kWを開発目標とした。
この励起光源を実現するための第一段階として、大口径の偏光制御素子およびレーザー増幅器を開発し10 J, 100 Hz,1 kWのパワーレーザーシステムを世界で初めて構築する。具体的には、レーザーシステムに不可欠な偏光制御素子としてTGGセラミックを用いた口径50 mm級ファラデー偏光回転装置を新規に開発した。

また、パルスエネルギーのスケーリングに優れ、かつ高い除熱機能を持つ口径50mm級アクティブミラー型増幅器を新規に開発しファラデー偏光回転装置と組み合わせて主増幅 器として構築し 10 J,100 Hz, 1 kW のパワーレーザーシステムの試験を開始した。現在、10 J, 10 Hz, 100 Wを得ることに成功するとともに、熱、波面、偏光、自然放出増幅光、寄生発振に関する知見が得られパルスエネルギー100 J増力の設計が可能となった。
本レーザーを超高強度レーザーの励起光源としての利用するためには二倍高調波への変換が必要であり、1 kWの平均出力に常時耐えうる二倍高調波発生を阪大独自の軸方向冷却された非線形結晶を用いることで実現する。このための装置設計を終了した。

さらに、超短パルス高強度パワーレーザーの基盤技術として、超高強度を維持しつつパルスエネルギーを抑えることでレーザー装置全体を小型化する試みとして10 fs以下の超短パルス化を検討した。小出力ながら300 nm以上の超広帯域光パラメトリック増幅に成功した。これを高パルス化する際に問題化するビーム口径内の局所的な増幅スペクトルの違いを補正する手法を独自に考案、特許申請した[1]

考案したWNOPCPA(特許出願済)の光学配置と超広帯域増幅スペクトル

また、複数のエネルギー変換を必要とする現在の超高強度レーザーからの脱却として将来のさらなる小型化・高効率化を目指した新レーザーセラミック材料開発を進めており、液相から開始するセラミック製造技術の初期段階として素となる粉体の粒径制御を行い、最適条件を見出した。
レーザーの産業展開としてH30年11月に大阪大学レーザー科学研究所内に企業30社による「パワーレーザーフォーラム」を立ち上げ、産学連携ネットワークの枠組みづくりを開始した。

[1] Li Zhaoyang, 河仲準二、「レーザー増幅方法」特願2019- 3879.

「電通大レーザー」グループ

2019年度

本グループでは、将来の高繰り返し、高平均出力レーザーでの要素技術開発を目指し、機械学習を用いたレーザー制御、まったく新しい概念による超高耐力光学素子の開発とそのデブリフリー集光光学系への応用、長期間にわたり安定でかつ高強度レーザー照射に強く、低損失な光学ミラーの開発を行っている。

オゾンレンズ装置

機械学習を用いたレーザー制御の研究では、空間モードおよびそのモード径を制御しやすいファイバーレーザーのコヒーレント加算を対象に、レーザーの予測制御を含む技術開発を行った。2本のレーザーの位相を従来のPID制御と同等なレベルで加算させることに成功している。

超高耐力光学素子では、これまでの平面波の回折スイッチから、平面波->球面波の返還を含む回折スイッチ光学素子を考案し、原理実証実験まで行った。ここでは、最大性能として16J程度のレーザーを回折限界まで集光可能な素子が達成でき、同時に回折による偏角を行うために、上流の固体素子を集光部に置かれた固体ターゲットからのデブリから完全に保護できる集光システムが設計できることを明らかにした。

高信頼性光学素子の開発では、クラス10のクリーン度環境下でダメージ強度までの100Hzパルスレーザーを長時間照射し、その間の光学薄膜の光学屈折率特性を高精度にモニターできる施設を開発した。数時間に及ぶ照射履歴の観測で、これまで定量的には明らかになっていなかった照射による光学薄膜の変化履歴が明らかになる。これらのデータをもとに、光学薄膜成膜メーカーと協力して、高信頼性膜開発を行うことができるようになった。

2018年度

本グループでは、将来の高繰り返し、高平均出力レーザーを実現するために、ファイバーレーザーでのコヒーレント加算技術の開発、超高耐力超低損失光学素子の開発とそれを利用した新しい概念のレーザーシステムの原理実証実験、超高品質光学素子の高耐力化とその試験および製造方法の確立を行っている。

まず、マルチコアファイバーのコヒーレント加算の研究では、将来の数十~数百本にもなると予想される加算本数に適応可能なコヒーレントビーム結合技術として、異なるファイバーレーザー間の位相を深層強化学習の手法で合わせていくシステム開発を行った。2018年度では、まず、二つのファイバー増幅器のコヒーレントビーム結合の位相雑音を評価関数とし、機械学習をさせた後で加算時の変動を抑えるプロセスを行うソフトウエアの開発を行った。その結果、従来のPID制御と有意な差がないレベルまで加算可能なことを確認した。

オゾン・グレーティング

超低損失オゾン回折素子の開発では、スイッチ後の回折波の波面計測を行い、波面精度がλ/10以下になるような動作領域を決定し、10Hz程度まで安定に高品質な波面が得られることを確認した。これまですでに回折効率で96%を達成しているので、この結果と合わせ、実際のレーザーシステム応用への最低条件をクリアすることができた。

超低損失高反射率光学素子は、使用するレーザーの高平均出力化が進むにつれ重要となってくる。しかし、この高反射率低損失化とパルスレーザーに対する高耐力化は現在までのところ同時には達成されていない。特に、精密に制御された光学薄膜が高平均強度のレーザーにさらされた時に、どのような変化をするかは不明である。

この評価のためには、他の要因を排除できる試験環境整備が必要で、そのための新たなクリーンルーム環境を設置(クラス10程度)し、膜のin-situ計測モニターとしてエリプソメトリを照射面で測定できるシステムを構築した。

発表論文

2023年度

2022年度

2021年度

2020年度

2019年度

2018年度

2017年度

  • Acceleration of electrons in THz driven structures for AXSIS, N.H. Matlis, F. Ahr, A.-L. Calendron, H. Cankaya, G. Cirmi, T. Eichner,A. Fallahi, M. Fakhari, A. Hartin, M. Hemmer, W.R. Huang, H. Ishizuki,S.W. Jolly, V. Leroux, A.R. Maier, J. Meier, W. Qiao, K. Ravi, D.N. Schimpf,T. Taira, X. Wu, L. Zapata, C. Zapata, D. Zhang, C. Zhou, and F.X. Kartner, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A: Accelerators, Spectrometers, Detectors and Associated Equipment, Vol. 909, pp. 27-32 (2018). doi: 10.1016/j.nima.2018.01.074
  • 12 mJ Yb:YAG/Cr:YAG microchip laser, Xiaoyang Guo, Shigeki Tokita, and Junji Kawanaka, Optics Letters, Vol. 43, Iss. 3, pp. 459-461 (2018). doi: 10.1364/OL.43.000459


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