卓上自由電子レーザーの研究開発

研究開発の課題

本プロジェクトでは、「卓上自由電子レーザー装置」や「放射光発生装置」の実現に向けて、以下の課題に取り組んでいます。

  1. レーザー航跡場電子加速(LWFA)による、高安定・高品質な1GeV級電子ビームの生成技術の確立とそれを利用したEUV自由電子レーザー実証と利用。
  2. 安定なレーザー輸送系の構築。
  3. ガスジェット、キャピラリー内プラズマの安定生成。
  4. サブフェムト秒精度のタイミングシステム。
  5. 室温、湿度、振動等変動を高精度に抑制する環境制御システム。

研究開発の成果概要

本プロジェクトに参加している研究開発機関(研究開発グループ)がこれまでに達成した成果の概要および発表論文を、以下、年度毎に掲げます。

2022年度

単色性に優れ高い電荷密度を持つ電子ビームを安定に生成するため電子入射器の開発に注力した。

  • プラットホームレーザーにおいては、レーザーパラメータと電子ビームパラメータとの相関を正確に計測し、制御するシステムの構築を開始した。これらにより、ビームの単色性、ポインティングの安定性、電荷量等を大きく改善した。
  • ガス標的を生成する超音速ノズル内部の非線形流体解析を行い、安定な電子入射が可能な新しいノズルを開発した。
  • 安定した高品質の電子ビームを生成するため、相対論的、無分散、自己無撞着なPIC(Particle-In-Cell)コードを用いて数値シミュレーションを行い、プラズマ密度分布のダウンランプ(急峻な密度勾配)を用いた電子の自己注入過程の制御と局在化について検討した。その結果は、実験装置の設計と実験パラメータを決定する際の指針として活用した。

2021年度

衝撃波入射を用いた電子発生の最適化を進め、EUV-FEL発振に必要な電子ビームパラメータを取得した。

  • レーザー波面の改良により電子ビームの方向制御を可能とし、ポインティング揺らぎを従来の1/3に改善した。また、相対エネルギー拡がり(ΔE/E)1%未満の単色性の高い電子ビームを得た。
  • イオン化入射法と衝撃波入射法に於ける電子バンチ構造を計測し、衝撃波入射は単色性に優れ、より短いバンチ長が得られることを確認した。
  • ガスジェットの密度分布を制御することにより、ピークエネルギー300MeV、ΔE/E〜6%(FWHM)以下で大電荷量(〜50pC)の電子ビームを再現よく発生できることを確認し、密度分布と電子ビームのエネルギースペクトルの相関を明らかにした。

2020年度

電子加速プラットホームでは入射器の開発に注力した。

  • レーザーパルスの空間チャープと電子ビーム発生軸の相関を明らかにし、この調整方法を確立した。これにより利用できるビーム電荷量が増え、電子ビームの計測、制御性が大きく向上した。
  • PICシミュレーションで高い単色性のビーム発生が示唆された双こぶ型の密度分布を持つ超音速ガスジェット標的を開発し、この密度分布を精密に制御する事で単色性の高い(ΔE/E〜数%(FWHM)以下)電子ビームを再現よく発生できる事を確認した。
  • パルス四重極電磁石とスリットによるエネルギースライス制御を追加することで、再現性を維持したまま、更に単色性の高い電子(ΔE/E〜1%(FWHM)以下)の生成を確認した。
  • 入射器の電子ビームを用いて、電子ビームとレーザー光のタイミング計測とバンチ長計測を行い、10fs(rms)以下の電子ビームとプローブレーザーのタイミングジッターと、30fs(rms)以下の電子ビームバンチ長を確認した。加えて、入射器からの200MeVの電子ビームと極短周期アンジュレータ(λu=10mm、L=500mm)を用いて放射光を確認し、イメージ計測と分光計測を効率よく行えるシステムを設計・製作する指針を得た。
  • レーザー駆動加速部の研究開発に加え、プラズマ中の航跡場を評価のためにRF小型電子加速器のコンポーネント開発・準備を並行して実施した。

阪大電子加速グループ

2019年度

極短周期マイクロアンジュレータを用いてkeV領域でのXFELを実現するために、多段(2段もしくは3段)レーザー航跡場加速にて発生加速する電子ビームは、要求値の、加速エネルギー〜4GeV、電荷量>10pC/パルス、エネルギー広がりΔE/E<0.01%、電子バンチ長<4fs、規格化エミッタス<0.02πmmradを全て同時に満足す必要がある。 そこで、多段レーザー航跡場加速の各加速ステージにおけるプラズマパラメータと入射電子ビームの条件をPIC(粒子法)シミュレーションによって検討し、シミュレーション結果に基づき電子ビーム発生部の基本設計検討を行った。ブースター(追加速)ステージには長尺光導波路チャネルを用いるが、効率的な追加速のためには入射器から輸送される電子ビームは直径〜数十ミクロンのチャネル内にロスなくできるだけたくさん入射することが求められる。ブースターと入射器の間には電子ビーム用の集光レンズを設置することが難しいため、長距離輸送され空間的に広がってくる入射電子ビームをどのように強収束し直径数十ミクロンのチャネル内にロスなく入射するかが大きな課題であった。 長距離電子輸送を伴うステージング加速実験を実施し、その中で、ブースター直前の低密度プラズマ中に入射電子ビーム自身が作るビーム航跡場で同じ電子ビーム自身が収束するプラズマレンズ効果をレーザー加速においては世界で初めて発見し、追加速航跡場への高効率の電子入射実験でも確認した。

ステージングレーザー航跡場加速の追加速航跡場においてプラズマレンズ効果を発見

2018年度

数サイクルレーザーのアップグレードに関しては、ラムダキュー法のドライバーとして開発されている数サイクルレーザーはこれまでにエネルギー1mJ, パルス幅5.5fsのパルスが得られている。平成30年度は、10mJに出力を増強するために、高出力のピコ秒励起レーザーを追加した。 grismおよびdazzlerを透過することで分散補償およびパルス幅伸張された光をこの励起レーザーを用いたNOPAで増幅することにより10mJまで増幅した。入射器の高度化に関しては、ステージング加速において追加速航跡場へ入射する単色電子ビームの電荷量を増やすため、入射器の電子輸送系を検討し予備実験を実施した。入射器の電子ビームの単色化と収束に用いているパルス駆動ソレノイドに加え、強収束用のパルス駆動ソレノイドを導入し、電子発生点をイメージリレーすることによりブースターへの電子入射効率を向上させた。 また、二次元PIC(粒子法)シミュレーションにてステージング加速のブースターレーザー航跡場における加速可能な電子ビームの最大電荷量を見積もった。この手法を用いてレーザー航跡場でのチャージローディングの効果を考慮したステージング加速の検討が可能となった。

入射器の開発:【準単色電子ビーム】パルス駆動ソレノイドによるエネルギースライス技術

QSTレーザー診断グループ

2019年度

タイミング計測に関して、電気光学効果空間デコード法の詳細なシミュレーションを実施し、タイミングが電子エネルギーとバンチ長に依存することを発見した。 タイミング計測を正確に行うためには、電子のエネルギーとバンチ長を同時に計測しておく必要があることが分かった。短いパルス長を計測可能なコヒーレント遷移放射光計測のためのレーザー光をブロックするテープターゲットを設計した。ビーム制御技術に関しては、衝撃波入射法の試験をQSTのJ-KAREN-Pレーザーを用いて行ない、イオン化入射法よりもポインティング安定度が高くなることが分かった。 また、衝突入射法の準備も進めており、2つのレーザー光をプラズマ中で衝突させることに成功した。

2018年度

パルス長・タイミング計測に関しては、播磨拠点でのレーザー加速電子ビーム(30-80 MeV, 〜1 pC)に対し、QSTにて実績のある電気光学効果空間デコード法(GaP結晶)によるシングルショット計測を実施したが、信号計測に至らなかった。感度不足が原因と考えられることから、より高感度(~75倍)のZnTeに変えて計測を行う予定である。 短いパルス長を計測可能なコヒーレント遷移放射光計測のための分光器を設計し、2〜18µmの波長範囲をシングルショットで計測できる分光器を設計した。ビーム制御技術に関しては、イオン化入射法の試験をQSTのJ-KAREN-Pレーザーを用いて行った。レーザーパワーは300 TW, 40 fs、集光強度1020 W/cm2で直径10mmのコニカルガスジェットノズルを用いた。Neガスを用いることで、発散角が<1 mradのビームが発生することがわかり、これはイオン化ボリュームとタイミングが影響していることを示唆している。 このように、イオン化入射法を用いることで加速電荷量、ビーム品質がある程度制御できることがわかった。

「JASRI電子加速器等共通技術開発」グループ

2019年度

JASRI電子加速器等共通技術開発グループでは、レーザー航跡場へテストバンチを入射する極短パルス電子線型加速器を研究開発している。その装置は、約100fs幅の2MeV程度の電子バンチをCバンド(5712MHz)のレーザー高周波電子銃により生成して、その後にバンチを同じくCバンドの進行波型バンチャーで縦方向の時間幅を3fs程度に圧縮し、後続のQのトリプレット磁石により横方向の幅を全幅で数百mmに収束するものである。

線型加速器の電子ビーム軌道(シミュレーション)。 プラズマ航跡場の加速点に於いて、要求を満足するt = 2.876 fs、x = 18.66 μm、y = 11.22 μm (rms)の 電子バンチ(~10 MeV, 100 fC)の生成を確認した。

本年度は、先年度に続き電子ビームの輸送シミュレーションを継続した。先年度は12fsくらいのバンチ圧縮であったが本年度は3fsくらまでバンチ圧縮が可能であることを計算で実証した。以上に加えて、先年度に製作した線型加速器ための大電力高周波源である出力350kVのクライストロン用パルス高電圧電源の大電力試験を行った。 その性能は、クライストロンを駆動する繰り返し30ppsで350kV、4msの高電圧パルスを出力できるもので、そのパルス毎の電圧ジッタは、電源のスイッチング周波数を現行の20kHzから40kHzに上げることで、世界最高レベルの約3.16ppm(rms)に達した。高精度タイミング系の開発で我々は、世界最高水準の低ノイズマスターオシレータを開発した。 タイミング系のパルス時間ジッタは、先述したオシレータなどの構成要素に於ける出力高周波の側波帯ノイズの量で決定される。今回開発したオシレータのノイズ量は、11.424 GHzキャリアの側波帯の10Hzに於いて-50 dB/cに到達した。

また、線型加速器の電子ビームのフェムト秒の時間安定性を強固にするために、先年度に製作したマスターオシレータの更なる低ノイズ化を目指しQ値が10万程度ある空洞フィルターを設計し、メーカーにより製作され納品された。現在、その空洞特性を低電力高周波測定により行っており、所望の性能が得られつつある。 加速器要素の新規設計・製作では、上記の加速器要素中のCバンド・レーザー高周波電子銃空洞を発注し、制作後の低電力高周波測定に於いて所望の性能が得られることが明らかになった。加えて、加速器関連の既存要素の整備で我々は、クライストロン用の電子ビーム収束用のソレノイドコイルおよび、それ用の電源を発注した。それが年度末に無事納品された、コイル単体に電流を流す試験や電源の単体動作試験を行い問題無いことを確認した。 今後は、コイルを先に述べたクライストロン・モジュレータに組み込み、コイルの性能確認も兼ねたクライストロンの大電力高周波試験を行う予定である。 フェムト秒領域のタイミング系の開発としては、先に述べたマスターオシレータで駆動するレーザー発振器の設計に我々は着手した。以前より構想していた、IT系で良く使用される波長1550nm系のレーザー発振器を使用して、それを800nmの倍波に非線形結晶で行いチタンサファイア増幅器を駆動する案の検討を始めている。また、その増幅器として既存の理化学研究所所有のシステムが利用出来ないかの検討にも着手した。

2018年度

JASRI電子加速器等共通技術開発グループでは、レーザー航跡場へ入射する電子線型加速器を研究開発している。それは、縦方向の時間幅が10fs以下で横方向の幅が全幅で数百μmの電子バンチを生成するものである。 本年度は、この短バンチ電子の生成方法として幾つかの方法を検討した。その中には、数ps幅の2MeV程度の電子ビームをCバンド(5712MHz)のレーザー高周波電子銃より生成して、その後に同じくCバンドの進行波型バンチ圧縮空胴を採用することで電子の速度変調により10fs以下の短バンチを生成する線型加速器がある。我々は、この加速器の予備的な電子ビームの軌道シミュレーションを実施し、ほぼ目標に近い電子ビームの縦方向Zが時間にして12 fsで、横方向X,Yが200μmに絞れることを見いだした。 この事から今後の開発方向としては、この線型加速器の開発をすることを決めた。以上に加えて我々は、線型加速器の大電力高周波源であるクライストロン用の出力350kVのパルス高電圧電源を製作した。その性能は、予備的な試験の範囲であるが、クライストロンを駆動出来る30ppsで350kV、4μsの高電圧パルスを出力できるものである。またその電圧安定度は、そのスイチング周波数を現行の20kHzから40kHzに上げることで世界最高レベルの約10ppm(全幅)のパルス毎の電圧ジッタに達した。 またフェムト秒領域の レーザー同期方法の開発として我々は、レーザー光源である発振器で必要な、モードロック用の時間基準となる超低ノイズ電気的発振器(80MHzほか)を開発した。モードロックがレーザーの出力時間ジッタを決め、その性能を決定づける大きな要素はモードロックの時間基準となる電気発振器のノイズレベルである。開発した信号源のノイズレベルは、X線自由電子レーザーに於いて電子ビームと加速高周波の13fs(rms)の同期性能を実現した信号源より、予備的な評価であるが5712MHzの側波帯の10Hzに於いて-10dB以上低い-80dBであった。このレベルは既に世界最高レベルである。

「KEKアンジュレータ」グループ

2019年度

アンジュレータの極短周期化のための板状磁石素材を用いた磁石製作方式・着磁方式を開発した。特に、FY2019には、さらに新しい磁気回路の検討・開発に着手し磁場増強の可能性を見出した。上記板状磁石を利用した反発磁石による、磁力相殺方式を検討し、これを用いなければ強大になるアンジュレータ磁場吸引力を適切に軽減・相殺する方法を開発した。この方式を採用することにより、高精度のギャップ駆動を小型・軽量のアンジュレータ筐体で実現することが可能になる。周期長4mmのアンジュレータ磁場に対するアンジュレータ筐体の磁力測定試験では、非常に良好な結果が得られた。この場合の磁場吸引力を最小ギャップ1mmにおいても、ほぼゼロに抑制することに成功した。 さらに、本FY2019には、上記開発の板状極短周期アンジュレータ磁石と磁力相殺方式を応用した、小型精密極短周期アンジュレータ試験機の設計・検討を開始した。一方でJST-ImPACT等の先行研究で開発済の極短周期アンジュレータ(周期長10mm)を、SPring-8キャンパスにおいて建設中のレーザー電子加速プラットフォームに設置し、50-75MeVの電子ビーム生成とレーザー加速に成功し、併せてこのビームラインで最初の放射光生成と観測(可視領域:350nmより長波長)に成功した。

発表論文

2023年度

2022年度

2021年度

2020年度

2019年度

2018年度

2017年度



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