本サイトはJST「レーザー駆動による量子ビーム加速器の開発と実証 」プロジェクトを紹介するサイトです。
レーザープラズマ駆動による電子加速
レーザープラズマ駆動により電子を高エネルギーに加速するには、高強度・超短パルスレーザーで気体中にプラズマの疎密波を生成し、そのプラズマ中に発生する電場を用います。金属でできた加速空洞には金属表面での絶縁破壊による限界がありますが、プラズマはイオン化した状態であり、そのような限界がないため、高い電場を保持できます。
また、プラズマによりレーザーの横波を加速に使える縦波に変換されます。このプラズマ中に発生する加速電場を「レーザー航跡場」と、またこの加速手法を「レーザー航跡場電子加速(Laser Wake Field Acceleration、LWFA)と言います。レーザー航跡場は従来の加速電場の1000倍以上に達します。
レーザー航跡場の中で電子は以下のようにして加速されます。
- レーザーの持つポンデロモーティブ力により、電子を押しのけます。
- イオンは重くて動けないので、電子とイオンの荷電分離が起こり、レーザーのパルス長とプラズマ波長が同程度であればプラズマ波(航跡波)が励起されます。
- この航跡波は、薄いプラズマの中をほぼ光速cで進行するので電子の加速に適しています。
本プロジェクトでは、LWFAで卓上サイズの自由電子レーザー装置や放射光発生装置を実現させることを目指しています。
右図は、理化学研究所(播磨)に整備されたX線自由電子レーザー施設(SPring-8 Angstrom Compact free electron LAser、SACLA)の C-band主加速管システムと呼ばれる電子加速器です。加速器システム全体の長さは400m、加速管自体の長さは約230mあります。電子は、右図手前右下から左上に向かって、72台の加速マグネットによって、8GeVまで加速されます。8GeVまで加速された電子は真空封じ型アンジュレータと呼ばれる規則正しく周期的に配列された上下一対の磁石列から構成される装置(全長約200m)に導かれ、その強い磁場との相互作用でX線領域にレーザーを発生します。
このX線レーザーは学術界・産業界から幅広く利用され、日々、最先端の研究成果を生み出しています。
本プロジェクトでは「レーザー航跡場電子加速」を用いて、全長約18mの小型X線自由電子レーザーの開発を目指しています。そのイメージを以下に示します。研究開発の中心は理化学研究所(播磨)の「レーザー電子加速プラットフォーム」にあります。
その電子を加速する心臓部は下図に示すように5cm程度までに小型されています。米国では20cmで電子を7.8GeVまでに、日本では5cmで電子を1.0GeVまでに加速する事に成功しています。
レーザープラズマ加速の最大の利点は単位長さ当たりの加速エネルギーが既存の加速器システムに比較して1000倍以上高いため、必要となる加速器システム数が小数の加速ユニットに簡素化される点にあり、建設費の大幅な削減が期待できることです。