プレス発表「がん治療用新型イオン入射装置の原型機が完成 ~重粒子加速器の小型化をレーザー技術で目指す~」
量子科学技術研究開発機構(理事長 小安重夫、以下「QST」)量子技術基盤研究部門関西光量子科学研究所(以下「関西研」)量子応用光学研究部、QST革新プロジェクト・量子メスプロジェクトの榊泰直上席研究員(九州大学 大学院総合理工学研究院 連携講座 教授を兼任)、小島完興主任研究員らは、住友重機械工業株式会社(代表取締役社長 下村真司)、日立造船株式会社(取締役社長兼CEO 三野禎男)との共同研究にて、レーザー・プラズマ加速を用いたレーザー駆動イオン入射装置の原型機を世界で初めて開発し、小型重粒子がん治療装置“量子メス”の実現に向けた統合試験を開始した。
重粒子線がん治療では、身体の深部にあるがん細胞に炭素イオンを照射して死滅させる。そのために炭素イオンを光の速度の約73 %にまで加速する必要があるが、大規模な加速装置や専用建屋が必要となることから普及が進まなかった。そこで、2016年からQSTでは、QSTに既存する装置(重粒子線がん治療装置 HIMAC)を約1/40(面積比)に小型化する“量子メス”と呼ばれる次世代重粒子線がん治療装置の開発を産官学連携で進め、2030年の実用化を目指している。量子メスに導入される革新的な2大技術の1つである超伝導技術を利用したシンクロトロンは、すでに実証機の製作段階にある。2大技術のもう1つ、レーザー・プラズマ加速を用いた新型イオン入射装置の開発を、QST関西研が主体となって進めている。今回、連携企業等との共同で「レーザー装置」「イオン加速部分」「イオン輸送部分」の3つの要素を統合し、レーザー駆動イオン入射装置の原型機を完成した。今後の統合試験を通じて、実証機製作に必要なデータが集まることが期待され、量子メス開発はいよいよ最終形の設計に向け大きく前進する。
本研究成果は令和5年8月29日から9月1日に日本大学理工学部船橋キャンパスにて開催された第20回加速器学会年会にて発表した。本研究は、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業大規模プロジェクト型「レーザー駆動による量子ビーム加速器の開発と実証」(JPMJMI17A1)の支援を受けて行われた。